Iso COZY 開発ノート — 保温テストの記録

Iso COZY 開発ノート — 保温テストの記録

山の朝は冷える。標高2,500mのテント場、夜明け前に目を覚ますと外気温はマイナス5℃。シュラフから這い出して最初にやることは、お湯を沸かすこと。凍えた指先でストーブに火を入れ、やっとの思いで淹れた一杯のコーヒー。しかし、ULハイカーの朝はそう優雅ではない。軽量化のために保温ボトルは持たず、薄いチタンマグに注いだコーヒーは、数分もしないうちに「ぬるい液体」に変わってしまう。

この小さな、しかし毎朝繰り返される不満が「Iso COZY」開発の原点だった。

Iso COZY 完成品
完成したIso COZY。21gという重量は、ULハイカーの装備リストに加えても誤差の範囲だ。

開発の動機 — 「保温」をグラム単位で考える

UL(ウルトラライト)ハイキングの世界では、すべての装備をグラム単位で吟味する。ベースウェイト3〜5kgを目指すハイカーにとって、保温ボトル(200〜350g)は真っ先にカットされる装備の一つだ。代わりに多くのULハイカーが選ぶのは、チタンシングルウォールマグやプラスチックカップ。軽いが、断熱性はほぼゼロに等しい。

僕自身、これまで数百日のトレイル生活を送ってきた中で、ずっとこの問題を抱えていた。沸かしたお湯でアルファ米を戻す10〜15分の間に温度が下がりすぎて、芯が残ったまま食べる羽目になる。フリーズドライのスープも、飲み終わる頃にはすっかり冷めている。テント内で温かい飲み物を楽しむ時間は、長いトレイルにおける大きな精神的リカバリーだ。その時間をもう少し「長く」できないか。

そこで設定した開発目標はシンプルだった。

Iso COZY 開発目標
・重量:25g以下(最終目標は20g台前半)
・沸騰水の60分後温度を未装着比で+10℃以上に維持
・450〜550mlカップに対応するサイズ調整可能な構造
・収納時にフラットになるパッカブル設計
・素材の耐熱温度が100℃以上であること

素材選定 — 5種類のフォームを比較テスト

カップ用コジー(保温カバー)の素材として候補に挙がったのは以下の5種類。それぞれ小さなサンプルを入手し、基本的な物性と保温性能を比較した。

素材 厚み 密度 耐熱温度 30分後温度差* 重量 (試作)
EVAフォーム(クローズドセル) 3mm 38 kg/m³ 80℃ +6.2℃ 28g
XPEフォーム(クローズドセル) 3mm 30 kg/m³ 90℃ +7.8℃ 24g
アルミ蒸着XPEフォーム 2.5mm 30 kg/m³ 90℃ +9.1℃ 21g
ネオプレン 3mm 130 kg/m³ 100℃ +8.5℃ 42g
Reflectix(気泡緩衝材+アルミ) 5mm 80℃ +10.3℃ 35g

* 外気温10℃環境下、450ml沸騰水、未装着カップとの温度差

数値だけを見ればReflectixが最も高い保温性能を示したが、厚みが5mmあるため収納性に難がある。ネオプレンは保温性能こそ良好だが、42gという重量と、濡れた後の乾きにくさがUL用途としては致命的だった。最終的に「アルミ蒸着XPEフォーム」を選定。厚み2.5mmで重量21gと軽量でありながら、アルミ蒸着層による輻射熱の反射で薄さの割に高い保温効果を発揮する。そしてXPEフォーム自体のクローズドセル構造が吸水をほぼゼロに抑えてくれる。

Iso COZY 素材のアップ
アルミ蒸着XPEフォームの断面。2.5mmの薄さながら、クローズドセル構造とアルミ層の二重構造で熱を逃がさない。

プロトタイプの試行錯誤 — 4回の試作と改良

Ver.1 — まずは基本形を(EVAフォーム 3mm)

最初の試作は、手元にあったEVAフォーム3mmを使った単純な円筒形。カップの外径に合わせてカットし、端部を接着剤で留めただけのシンプルな構造だった。底面は別パーツとして円形にカットし、はめ込み式にした。

結果:保温性能は未装着比で30分後に約+6℃。悪くないが、重量32gは目標を大きく超過。そしてEVAの耐熱温度が80℃と低く、沸騰直後のカップを入れると若干の変形が見られた。素材の見直しが必要と判断。

Ver.2 — 素材変更(XPEフォーム 3mm)

XPEフォームに変更し、耐熱性と軽量化を同時に改善。構造はVer.1を踏襲したが、底面の固定方法をはめ込みから縫製に変更。重量は24gまで下がり、保温性能も+7.8℃に向上した。ただ、円筒形の固定構造では異なるサイズのカップに対応できないという課題が残った。

Iso COZY プロトタイプ
試作を重ねる中で、構造と素材の最適解を探った。写真は改良途中のプロトタイプ。

Ver.3 — アルミ蒸着層の追加とサイズ調整機構

素材をアルミ蒸着XPEフォーム(2.5mm)に変更し、大きな転換点となった。厚みを0.5mm薄くしたにもかかわらず、アルミ蒸着層が輻射熱を反射することで保温性能は+9.1℃に向上。重量も21gまで削減できた。

さらにこのバージョンから、面ファスナー(ベルクロ)による巻き付け固定方式を採用。これにより、直径80mm〜100mmのカップに対応可能となった。EVERNEW Ti Mug 400、Snow Peak チタンシングルマグ 450、TOAKS 550mlなど、ULハイカーに人気のマグカップの多くをカバーできる。

Ver.4(最終版)— リッドの追加と仕上げ

最終版では、蓋(リッド)パーツを追加した。保温において最も熱が逃げるのは上部の開口部からの対流と蒸発だ。リッドを追加したことで、60分後の温度差は未装着比で+15℃以上を達成。目標の+10℃を大幅にクリアした。

リッドには小さなスリットを入れ、飲み口として使用可能に。蓋をしたまま飲めるため、保温効果を維持しながら手軽に飲める。総重量はリッド込みで21g。パッキング時はフラットに折りたたんで、カップの中にスタッキングできる。

Iso COZY カップ装着
カップに装着した状態。面ファスナーで巻き付ける構造により、異なるサイズのカップに対応する。

保温テスト — 定量データで検証する

テスト条件

測定条件
・カップ:EVERNEW Ti Mug 400(チタン・シングルウォール)
・水量:400ml(沸騰直後、約97℃)
・温度計:デジタルプローブ式(精度 ±0.3℃)
・測定間隔:5分ごとに60分間記録
・外気温:3条件(5℃ / 10℃ / 20℃)
・風速:室内無風状態(対照)+ 屋外微風(約1〜2m/s)

テスト結果:外気温10℃・無風条件

経過時間 未装着 (℃) Iso COZY装着 (℃) 温度差 (℃)
0分(初期) 97.0 97.0
5分 82.3 91.5 +9.2
10分 71.8 85.4 +13.6
15分 63.2 79.8 +16.6
20分 56.1 74.5 +18.4
30分 45.7 64.8 +19.1
45分 34.2 53.1 +18.9
60分 27.8 43.5 +15.7

特筆すべきは15〜30分の温度帯だ。未装着のチタンマグでは15分後にすでに63℃まで低下しているのに対し、Iso COZY装着時は約80℃を維持している。これはアルファ米の戻しやフリーズドライ食品の調理にとって決定的な差になる。多くのフリーズドライ食品は「熱湯を注いで15分」が標準だが、その15分間を80℃近い温度で保てるかどうかで、仕上がりのクオリティが大きく変わる。

保温テストの様子
保温テストの様子。デジタル温度計で5分間隔の温度変化を記録していく。

外気温別の比較

外気温 30分後(未装着) 30分後(装着) 60分後(未装着) 60分後(装着)
5℃ 38.4℃ 58.9℃ 19.2℃ 37.6℃
10℃ 45.7℃ 64.8℃ 27.8℃ 43.5℃
20℃ 54.3℃ 71.2℃ 36.5℃ 52.8℃

外気温5℃の条件下でも、60分後に37.6℃を維持できている。未装着では19.2℃まで低下しており、ほぼ外気温に近い状態だ。約18℃の差は、体感では「温かいスープ」と「冷たい水」ほどの違いになる。

フィールドテスト — 実際のトレイルで

ラボデータだけでは不十分だ。実際のフィールドでの使用感を検証するため、3つのフィールドテストを実施した。

Test 1:奥秩父・雲取山〜甲武信ヶ岳(11月下旬・2泊3日)

外気温は夜間で-3〜2℃、日中は5〜10℃。朝食のフリーズドライリゾットにIso COZYを使用したところ、注湯後15分でもカップ側面がしっかり温かく、中身も十分な温度で調理が完了した。未装着で食べていた前回の同ルートでは芯が残ることがあったが、今回はその問題がまったく発生しなかった。

収納性も良好。EVERNEW Ti Mug 400の中にフラットに折りたたんでスタッキングでき、追加のパッキングスペースは実質ゼロ。面ファスナーのタブが引っかかることもなく、取り出し・装着・収納の一連の動作がスムーズだった。

フィールドテスト
フィールドでの使用シーン。カップにぴったりフィットし、実用的な保温効果を発揮する。

Test 2:八ヶ岳・硫黄岳〜天狗岳(12月上旬・日帰り)

稜線上の風速5〜8m/sの環境でテスト。風の影響を直接受ける状況では、無風のラボデータよりも温度低下が速くなる。しかしIso COZY装着時は風による冷却をかなり緩和でき、風速がある中でも30分後に58℃程度を維持。稜線上でのコーヒーブレイクが現実的な楽しみになった。

Test 3:丹沢・蛭ヶ岳〜丹沢山(1月中旬・1泊2日)

積雪環境でのテスト。夜間の外気温は-7℃まで低下。テント内でお湯を沸かし、Iso COZYに入れたカップでお茶を飲みながら翌日のルートを確認する。この「温かい飲み物を手元に置いて過ごす時間」は、冬季のテント泊における大きな快適性向上だと改めて感じた。30分以上温かさが持続するので、慌てて飲み干す必要がない。

Iso COZY 使用イメージ
冬のテント場でのIso COZY。21gの追加重量で得られる快適さは、重量対効果で考えれば最も優れた装備かもしれない。

設計のこだわり — 細部に宿る工夫

Iso COZYには、シンプルな外見の中にいくつかの設計上のこだわりを詰め込んでいる。

面ファスナーの配置:フック面(硬い方)を外側に配置し、ループ面(柔らかい方)をカップに接する内側に配置。これにより、カップ表面に傷がつくのを防ぎつつ、しっかりとした固定力を確保している。

縫製ラインの最小化:縫い目は熱橋(ヒートブリッジ)になるため、可能な限り減らした。本体は1枚のシートから構成し、縫製箇所は面ファスナーの固定部分のみ。底面はフラップ式にすることで、縫製なしでカップ底をカバーする。

リッドのフィット感:蓋はカップ上部にかぶせるキャップ式。内径をやや小さく設計し、フォームの弾性でカップの縁に軽く圧着する構造。逆さにしても簡単には外れないが、片手で容易に着脱できる絶妙なフィット感を狙った。

Iso COZY ディテール
シンプルな外見の中に、素材選定から構造設計まで、試行錯誤の結果が詰まっている。

スペックまとめ

製品名 Iso COZY
重量 21g(リッド込み)
素材 アルミ蒸着XPEフォーム(2.5mm厚)
対応カップ径 80〜100mm
収納サイズ フラット折りたたみ(カップ内スタッキング可能)
保温性能 60分後 +15℃以上(外気温10℃・無風条件)
耐熱温度 90℃

今後の展望

Iso COZYはMIYAGEN Trail Engineeringとしては初の「ソフトギア」カテゴリーの製品となった。バックパックやアクセサリーとは異なる、断熱・保温という領域への第一歩だ。

今後は、クッカー全体を包む大型版や、ボトル用のバリエーション展開も検討している。また、外気温が0℃を下回るような厳冬期に特化した、より厚手のモデルも視野に入れている。ユーザーの方々からのフィードバックを反映しながら、「温かさ」というシンプルだけれど山では貴重な快適性を、できる限り軽い重量で提供していきたい。

21g。それは山の朝の一杯を、ほんの少しだけ長く温かくしてくれる重さだ。

文・写真:MIYAGEN Trail Engineering
テストデータは当社の計測環境に基づくものであり、使用条件により結果は異なります。

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